2025.06.25
SDGsと脱炭素を企業の利益に変える経営戦略
SDGsと脱炭素化を単なる「コスト」ではなく、「企業の持続的な成長と利益」につなげる経営戦略のあり方をご紹介します。

はじめに
本コラムでは、日々の経営に尽力されている中小企業のみなさまへ向けて、SDGsと脱炭素化を単なる「コスト」ではなく、「企業の持続的な成長と利益」につなげる経営戦略のあり方をご紹介します。
現在、SDGsや脱炭素という言葉を耳にしない日はありません。しかし、「それは大企業が取り組むべきことで、うちのような中小企業には関係ない」あるいは「何となく重要そうだけど、具体的に何をすればいいのか分からない」と感じている方も多いのではないでしょうか。
しかし今や、SDGsと脱炭素への取り組みは、企業の存続と発展に不可欠な要素です。VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity:変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代と呼ばれる現代において、変化をチャンスに変える柔軟な経営姿勢が求められています。
1.時代背景:パラダイムシフトの現実
私たちが今、目の当たりにしているのは、まさにパラダイムシフトです。これまでの経済活動は、ともすれば環境負荷を顧みず、短期的な利益を追求する傾向がありました。しかし、地球温暖化、資源の枯渇、貧富の格差拡大といったグローバルな課題が顕在化するにつれて、そのあり方が根本から問い直されています。
気候変動と脱炭素の喫緊性
特に気候変動は、私たちの生活、そしてビジネスに直接的な影響を及ぼし始めています。異常気象によるサプライチェーンの寸断、洪水や干ばつによる農作物の不作、これらはすでに世界各地で報告されており、決して遠い国の話ではありません。
こうした状況を受け、世界は2015年のパリ協定で「世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標を掲げました。この目標達成のためには、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする、すなわち脱炭素社会への転換が不可欠です。
日本政府も2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す「2050年カーボンニュートラル宣言」を表明し、国内外で脱炭素への動きが加速しています。これは、エネルギー供給源の転換だけでなく、生産プロセス、物流、消費行動に至るまで、あらゆる経済活動の変革を求めるものです。
SDGs:持続可能な社会への共通言語
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、2015年に国連で採択された「誰一人取り残さない」持続可能でより良い世界を目指すための国際目標です。17の目標と169のターゲットから構成され、貧困、飢餓、健康、教育、ジェンダー平等、気候変動、海の豊かさ、陸の豊かさなど、多岐にわたる地球規模の課題解決を目指しています。
SDGsは、企業が社会課題の解決に貢献しながら、経済的価値を創造するという、いわゆる共有価値の創造(CSV:Creating Shared Value)の考え方を強く後押ししています。これまでの企業の社会貢献活動(CSR:Corporate Social Responsibility)が、企業イメージ向上やリスクマネジメントといった側面が強かったのに対し、SDGsは事業活動そのものに社会貢献を組み込むことを促すものです。
これらの動きは、もはや一時的なブームではなく、企業が事業活動を行う上で避けては通れない、新しい社会のルールであり、ビジネスの前提となりつつあります。
2.経営に活かすには何が必要か?
では、このようなパラダイムシフトの中で、中小企業がSDGsと脱炭素を経営にどう活かせば良いのでしょうか。必要なのは、単なる「対応」ではなく、未来を見据えた「戦略的な経営判断」です。
経営層の意識変革とコミットメント
最も重要なのは、経営層、つまり社長である皆様自身の意識変革です。SDGsや脱炭素を「やらされ仕事」ではなく、「企業価値向上」のための投資と捉える視点が必要です。そして、その意識を社内に明確に示し、全社的な取り組みとしてコミットすることが不可欠です。
自社の現状把握と目標設定
まずは、自社が現在、どのような社会課題に影響を与え、また受けているのかを客観的に把握することから始めます。例えば、CO2排出量はどのくらいか、廃棄物の量はどうか、社員の働き方はどうか、サプライチェーンにおける人権問題への配慮はどうか、などです。
その上で、自社の事業特性と照らし合わせ、SDGsの17の目標の中から、特に貢献できる目標や、リスクを低減できる目標を特定します。そして、具体的な目標を設定し、できる限り数値目標を掲げることで、進捗を可視化できるようにします。
事業活動への統合
SDGsと脱炭素への取り組みは、従来の事業活動と切り離されたものではありません。むしろ、事業戦略、製品開発、生産プロセス、サプライチェーンマネジメント、マーケティング、人事戦略など、あらゆる企業活動に統合していくことが求められます。
例えば、製品のライフサイクル全体での環境負荷低減(LCA:Life Cycle Assessment)を考慮した製品設計、再生可能エネルギーへの切り替え、省エネ設備の導入、サプライヤー選定基準へのSDGs要素の組み込み、社員の多様性尊重と働きがいのある職場づくりなどが挙げられます。
情報開示とコミュニケーション
取り組みを進めるだけでなく、その内容を積極的にステークホルダー(顧客、取引先、従業員、地域社会、金融機関など)に開示し、コミュニケーションを図ることも重要です。透明性のある情報開示は、企業の信頼性を高め、新たなビジネスチャンスを創出するきっかけにもなります。
3.経営を好転させる効果的な活動
具体的にどのような活動が、経営を好転させることに繋がるのでしょうか。ここでは、中小企業でも実践しやすく、かつ効果的な活動をいくつかご紹介します。
コスト削減と生産性向上
脱炭素の取り組みは、そのままコスト削減に直結することが多くあります。
省エネの徹底:
照明のLED化、高効率な空調設備の導入、生産設備の最適化などは、電気料金の削減に直接貢献します。
再生可能エネルギーの導入:
自社敷地内での太陽光発電導入や、再生可能エネルギー由来の電力への切り替えは、長期的なエネルギーコストの安定化に繋がります。
廃棄物削減と資源循環:
廃棄物の減量化、リサイクルの推進、製品のリユース・リサイクルを考慮した設計は、廃棄物処理コストの削減だけでなく、新たなビジネスモデルの創出にも繋がります。例えば、製造工程で出る端材を別の製品に活用したり、使用済み製品を回収して再資源化したりする取り組みです。
これらは、環境負荷低減と同時に、企業のランニングコストを削減し、収益性を向上させる効果が期待できます。
企業イメージ向上とブランド価値確立
SDGsや脱炭素への積極的な取り組みは、企業のイメージアップに大きく貢献します。
◯顧客からの評価向上:
環境意識の高い消費者や企業は、SDGsに配慮した製品やサービスを選ぶ傾向にあります。これは、新たな顧客獲得や既存顧客との関係強化に繋がります。
◯優秀な人材の確保:
特に若い世代は、社会貢献意欲が高く、SDGsに積極的に取り組む企業で働きたいと考える傾向があります。採用活動における企業の魅力向上は、人材不足が深刻化する現代において非常に重要です。
◯金融機関からの評価:
ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大に伴い、金融機関は企業のSDGsや脱炭素への取り組みを融資判断の材料として重視するようになっています。資金調達の選択肢が広がり、有利な条件での資金調達が可能になる場合があります。
新規事業・新製品開発と市場機会の創出
社会課題の解決は、新たなビジネスチャンスの宝庫です。
環境配慮型製品・サービスの開発:
脱炭素技術や環境負荷の低い素材を活用した新製品の開発、省エネコンサルティング、リサイクルシステムの構築など、SDGsの目標達成に貢献する事業は、新たな市場を開拓します。
サプライチェーン全体の最適化:
サプライヤーとともにSDGsへの取り組みを進めることで、サプライチェーン全体のレジリエンス(回復力)を高め、リスクを低減することができます。また、新たな協業の機会が生まれることもあります。
例えば、廃材をアップサイクルして新たな価値を生み出す事業や、エネルギー効率の高い機械設備を開発・提供する事業などが挙げられます。
従業員のエンゲージメント向上
社員がSDGsへの取り組みに主体的に関わることで、仕事へのモチベーションやエンゲージメントが高まります。
働きがいの向上:
企業が社会に貢献しているという意識は、社員の誇りや帰属意識を高め、生産性向上にも繋がります。
チームワークの強化:
社内でのSDGsに関する勉強会やワークショップは、部門間の連携を深め、組織全体の活性化に貢献します。
4.これからの時代を生き抜く会社に求められているもの
これからの時代を生き抜く会社に求められているものは、短期的な利益追求だけでなく、長期的な視点に立ち、社会との共存共栄を目指す経営姿勢です。
レジリエンスの高い経営体質
予期せぬパンデミックや自然災害、国際情勢の変化など、現代社会は常に不確実性に満ちています。SDGsや脱炭素への取り組みを通じて、サプライチェーンの多角化、再生可能エネルギーへの転換、従業員の健康と安全への配慮などを進めることで、企業はよりレジリエンス(回復力)の高い経営体質を構築できます。これは、有事の際にも事業を継続し、危機を乗り越えるための重要な基盤となります。
ステークホルダーとの良好な関係構築
顧客、従業員、地域社会、サプライヤー、金融機関など、企業を取り巻くあらゆるステークホルダーとの良好な関係は、企業の持続的な成長に不可欠です。SDGsへの取り組みは、これらのステークホルダーとの信頼関係を深め、企業価値を向上させるための強力なツールとなります。
新たな価値創造への挑戦
SDGsの目標達成は、企業にとって「課題」であると同時に「イノベーションの源泉」です。社会課題の解決に資する製品やサービスを開発することは、新たな市場を創造し、企業の競争優位性を確立することに繋がります。これまでの成功体験にとらわれず、常に変化に対応し、新たな価値を創造していく姿勢が求められます。
まとめにかえて
SDGsと脱炭素は、もはや「コスト」や「義務」ではありません。これからの時代において、企業が成長し、社会から必要とされ続けるための「新たな経営戦略」であり、「未来への投資」です。中小企業だからこそできる、地域に根ざした独自のSDGsの取り組みや、小回りの利く意思決定プロセスを活かし、変化の波をチャンスに変えていくことができます。
日本SDGs協会では、本コラムで紹介したような各種の取り組みについて、自社の現状を可視化し、PDCAサイクルを意識しながら着実に前進させるための「SDGs認定制度」を設けています。
また、全国の企業と交流しながら学び合える「コミュニティ会員制度」では、セミナーや事例共有を通じて、日々の経営に役立つ気づきや連携の機会を得ることができます。
自社のペースで無理なく、確実に変化を形にしていくために、こうした制度の活用をぜひご検討ください。